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減衰に関する用語
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何気なくWebを見ていたら,次の様な記事がありました内容だけ紹介すると,以下の記事です。 減衰係数\(c\)、減衰定数\(h\)、履歴減衰率\(h\)、似たような名前です。 私の本が挙げられていたので,目にとまったわけです。記事の内容で私に責任があるわけではありませんが,わからない人もいるのかもしれません。同じような疑問を持っていらっしゃる方も多いと思いますので,少し説明しようと思いました。 まず,1自由度系の運動方程式は次の様に書けます。 \(\hspace{20mm}\)\(m\ddot{u}+c\dot{u}+ku=f(t)\) (1) この速度項に乗じられている\(c\)が減衰係数です。速度に乗じて力になる量ですから,次元を持った量です。 ここで,\(f(t)=0\),すなわち外力がない時を考えます。ばねを引っ張って離したと考えて下さい。すると,ばねは振動しますが,減衰定数\(c\)が大きくなると,だんだん振動しなくなり, \(\hspace{20mm}\) \(c=2\sqrt{mk}=c_c\) (2) の時に振動しなくなります。式の誘導はどんな初心者用のテキストにも載っていますので,ここでは説明しません。ここで, \(\hspace{20mm}\)\(\beta=c/c_c\)(3)を減衰定数と呼びます。例えば,ばねですと,減衰定数も減衰係数も同じ事ですが,減衰では係数と定数は定義が違います。減衰定数は次元がなく通常%で表されます。\(c=c_c\)の状態を臨界減衰といいます。\(\beta\)は臨界減衰に対する比になっていますので,式(3)は比ですから,減衰比とか臨界減衰比などと呼ばれます。 \(\beta\)の代わりに\(h\)が使われることもあります。弾性の材料を扱っているのであれば,この程度の知識で十分でしょう。 上に例を挙げた弾性の系では速度比例項でエネルギーを吸収します。一方,応力-ひずみ関係が非線形だと,応力-ひずみ関係がヒステレシスを描き,そこでエネルギーを吸収します。これも減衰です。 非線形時の応力-ひずみ関係は の様な形状です。この形状を紡錘型と呼びます。でも,紡錘といってもわかる人はほとんどいなくなりましたね。工場などで糸を中心にある棒に巻いていくとできる,中央部が膨らんでいる形状です。英語でも,Spindle shapeといいます。最近,若い技術者と話をしていたら,S字型といっていました。Sでは端部がとがっているイメージがでませんが,これも時代でしょうか。 ここで,うすい青色に塗りつぶしたところが,履歴による吸収エネルギー(\(\Delta W\))です。これを図の赤い斜線部の面積(\(W\))(ひずみエネルギーとか弾性エネルギーと呼びます)との比をとれば,減衰に関するパラメータができます。ここで,そのパラメータが粘性減衰により1自由度の振動系と等しくなるようにパラメータを設定すると, \(\hspace{20mm}\)\(h=\cfrac{1}{4\pi}\cfrac{\Delta W}{W}\)(4) となります。最初に紹介したサイトで,なんで\(4\pi\)なのと書いてありましたが,このようにすることで,同じ\(h\)が使えるようになるわけです。従って,\(2\pi\),\(\pi\)ではダメなんです。この辺の所を丁寧に書いた本は最近は見ないですね。田治見先生の名著「建築振動論」1)には丁寧に書いてあり, \(\hspace{20mm}\)\(e^{-h\pi}\approx1-h\pi\)(5) が成立するときには式(4)が成立すると書いてあります。ちなみに,左辺をマクローリン展開して第2項までとっています。\(h^2\)が1に対して十分小さく無視できるということです。建築構造物の減衰定数は2~5%程度が使われると思っていますが,5%でも\(h^2\)は0.0025です。このように定義すれば,履歴減衰率という言い方で表現できることがわかります。ちなみに,地盤の解析では\(h=0.3\)(30%)程度まで現れますから,\(0.3^2\pi/2=0.14\)ですから,単純に無視してよいとはなりません。 なお,田治見先生の本にはもう一つ重要なことが書いてあります。それは,1質点系の解析から求められる減衰定数は質量とばね定数が与えられた振動系の減衰性能を表すのに用いられ,(\(h\)の値は材料とは異なる減衰係数に依存することから)単なる減衰機構を表すのには用いられないが,非線形の応力-ひずみ関係から得られる式(4)は材料固有の定数であるということです。この点は余り意識されていないように思います。 実は,地盤の解析ではこれが重要なのですが,有名なSHAKEでも用語が正しく使われていません。これについては,SHAKEの減衰で説明しています。 参考文献
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